Notes on Dance 2

「映像化されたダンスからあたらしいダンスを開発する方法」のノートやテッド・ショーンの著作の翻訳・研究などを載せていきます

ヒラリー・ハリス「1つのダンス課題に関する9つのヴァリエーション」(1966)

「映像化されたダンス」をめぐる研究の1つとして、ヒラリー・ハリス「1つのダンス課題に関する9つのヴァリエーション」を取り上げます。

 

調べると、昨今は「映像化されたダンス」をめぐる研究がとても盛んなことが分かります。Erin BranniganのDancefilm: Choreography and the Moving Image (Oxford, 2011)やDouglas RosenbergのScreendance: Inscribing the Ephemeral Image (Oxford, 2012)が代表的なものでしょうけれども、そうした動向の先鞭をつけたものにJudy Mitoma (ed. Text EditorはElizabeth Zimmer)のEnvisioning Dance: On Film and Video (Routledge, 2002)があって、これはかなり網羅的に「映像化されたダンス」の多様な展開をフォローしているし、複数の研究者・作家のテキストが読めて、この分野では必携の研究書といってよいでしょう。

 

このEnvisioning Dance収められたAmy Greenfieldのテキスト「アヴァンギャルドなダンス・フィルム: デレンとハリス」(pp. 21-26)を参照しながら、ハリスの映像作品について、メモを作ってみたいと思います。

まずは作品をごらんください。

 


2. Nine Variations on a Dance Theme (1966) Dir ...

 

どうでしょう。今見るとさほど驚きはないかもしれません。寝そべった状態からダンサーが次第に起き上がって、体を旋回しつつ背が伸び上がると足を上げ、それをひとつのピークにすると、今度は次第に体が床に落ちてゆく。一分ほどのフレーズ(Dance Theme)を9回繰り返す。ダンスの側だけ見れば、単純な作品です。ですが、この9回のどれもカメラワークが異なります。今日のぼくたちが見慣れていて麻痺しているような強烈にアクロバティックなカメラの動作はないのですが、毎回のカメラワークの「ヴァリエーション」がこの作品を構成していきます。その詳細はもう少ししたら、考えてみたいと思います。

その前に確認しておきたいのですが、これはまず、グリーンフィールドによれば、マヤ・デレンの「カメラのためのコレオグラフィの研究」(1945)に多くを負っているようです。


Maya Deren - A Study In Choreography For Camera ...

 この作品は、冒頭の0:11-0:40の間、長いパンが続くのですが、これよく見ると、同じダンサーが何度も画面上に表われる作りになっています。不鮮明なために、若干(いや、結構)その効果は薄れてしまっていますが、これは「あれ、またいる!あれ、またまた出てきた!」と観客が驚く仕掛けになっているのです。これはもちろん、別の時間に撮影したものをつなぎ合わせているだけの映像の技術としてはごくごく初歩的なものです。最初(0:11-0:18)はしゃがんで全身が映り、二度目(0:19-0:25)は旋回している全身が映り、三度目(0:26-0:32)は上半身がカットされて下半身の旋回が映っています。四度目(0:32-0:40)は腕と首が映り、次第にしゃがんでいた状態から旋回しつつ背が伸びていくまでが映っています。しかも、それをカメラは次第に被写体をクロースアップしつつ映している、という作りになっています。

 

 

Envisioning Dance on Film and Video: Dance for the Camera

Envisioning Dance on Film and Video: Dance for the Camera

 

 

Screendance: Inscribing the Ephemeral Image

Screendance: Inscribing the Ephemeral Image